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東京地方裁判所八王子支部 昭和46年(ワ)767号 判決 1974年8月28日

原告

山口博

ほか一名

被告

神奈川中央交通株式会社

ほか一名

主文

1  被告らは連帯して、原告山口博に対し、金三三六万四、九二〇円、原告田中正隆に対し、金七九三万一、七五七円および右各金員に対する昭和四五年八月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告らのその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを三分し、その二を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。

4  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは連帯して、原告山口博に対し、金一、〇八五万九、四五〇円、原告田中正隆に対し、金三、六八九万三、八〇五円および右各金員に対する昭和四五年八月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告神奈川中央交通株式会社(以下被告会社という。)は、定期バスの運行等を業とする者であり、被告鈴木春男(以下被告鈴木という。)は同社に雇用されて、乗合自動車の運転に従事していた者である。

2  被告鈴木は、昭和四五年八月二八日午後四時四〇分ごろ、被告会社の定期運行バス野津田発原町田行車両番号多摩2う612(以下甲車という。)を運転し、八王子方面より町田市森野三丁目二〇番地先の交通整理の行われている都道森野交差点に差しかかり、これを矢口方面に右折しようとするに当り、すでに自車に対する信号が注意に変つており、交差点に進入することは許されないにもかかわらず、あえて交差点に進入し、折りから、原告山口博(以下原告山口という。)が運転し原告田中正隆(以下原告田中という。)が同乗するホンダC350エクスポート(325cc)自動二輪車(以下乙車という。)が、青信号で同交差点に入り、時速約三〇キロメートルで八王子方面に直進中であり、甲車としては優先通行権を持つ乙車の通過を一時停止して待つべきであり、かつ進行する場合でも交差点中心の直近内側を右折すべきであつたにもかかわらず、無謀にも交差点入口付近よりただちに横断歩道上を斜めに横切つて強引に右折したため、甲車左前部を乙車右前部タコメーター付近に衝突させ、よつて乙車を運転していた原告山口を道路上に転落させて、同人をバスの車体下に捲き込み、甲車の後輪でこれを約四五メートルにわたつて引きずり、骨盤骨折等の重傷を負わせ、乙車に同乗していた原告田中を甲車左側面に激突させ、頭部、顔面、胸部等を強打して重傷を負わせた。

3  原告山口の蒙つた損害

(1) 治療状況と後遺症

原告山口は、脳震盪、右顔面肘背部腰部左前腕上腕部挫傷および擦過傷、右下腹部挫創および擦過傷、右腸骨部皸裂骨折等により昭和四五年八月二八日から同月三〇日まで三日間大槻外科医院へ入院し、骨盤骨折(前腸骨棘剥離骨折)、坐骨骨折、腹部挫創、腹部背部広範囲擦過傷、左腋窩部挫創等により昭和四五年八月三〇日から同年一〇月一八日まで五〇日間相模原中央病院へ入院し、同日退院後同年一二月五日までの間に三九日間通院し、同月六日から翌四六年五月末ころまで一週間に一、二回の割合で通院して無料治療を受け、さらに左手関節瘢痕切除縫合、神経剥離術、腹部瘢痕切除術等のため、昭和四八年九月六日、七日の二日間同病院へ入院し、同日退院後同年九月二六日までの間に五日間通院して治療を受けたが、後遺症として左手関節と腹部に不規則な瘢痕を残し、かつ大腿前面にシビレ感が残存して後遺障害の等級表では第一二級と認定されている。

(2) 積極損害

<1> 治療費

治療費のうち金一六万七、二四〇円は被告会社において支払ずみであるが、残金四万九、七〇〇円の支払を求める。

<2> 付添看護料

被告会社は、職業的付添人(家政婦岡野)を付した三七日間分の看護料合計金七万五、六五〇円は支払つたが、原告山口の父および母が看護した合計一七日間分(一日につき金一、五〇〇円の割合による)の看護料金二万五、五〇〇円の支払をしないので、その支払を求める。

<3> 入院中の諸雑費

原告山口は前記のとおり前後合わせて合計五四日間入院しているから、一日につき金五〇〇円の割合による五四日間分の入院中の諸雑費金二万七、〇〇〇円の支払を求める。

右<1><2><3>の合計金一〇万二、二〇〇円

(3) 逸失利益

<1> 就職が一年おくれた分

原告山口は、本件事故当時東京都立町田高校二年に在学中であつたが、前記受傷のため長期間入院し、退院後も相当日数欠席、遅刻、早退を余儀なくされ、ついに欠席時間が規定数を超過して原級に留まつた。このため右高校の卒業が一年おくれ(昭和四八年三月卒業し同年四月大学へ入学)、大学を卒業してからの就職も一年おくれたことにより蒙つた原告山口の逸失利益は、金一一八万一、九〇〇円である。(別紙逸失利益算定表(山口分)の初年度欄記載のとおり)。

<2> 原告山口は、昭和五二年三月大学を卒業し、同年四月(二三才)から六七才まで稼働できるところ、前記後遺症(第一二級)により、その労働能力を右稼働の全期間、一四パーセント喪失したものと認められ、右労働能力喪失による原告山口の逸失利益は金六一五万八、九〇〇円である。(別紙逸失利益算定表(山口分)のその後欄記載のとおり)。

右<1><2>の合計金七三四万八〇〇円

(4) 慰藉料

原告山口に対する慰藉料は、前記傷害の部位、程度、治療状況、後遺症、落第、不当取調その他の事情に鑑み、少くとも金二〇〇万円が相当である。

右(2)(3)(4)の合計金九四四万三、〇〇〇円

(5) 弁護士費用

被告らの本件事故についての抗弁その他の主張、応訴態度、これによる本訴訟の長期化、複雑困難性等から、原告山口が弁護士天野憲治および同村藤進に支払うことを約した手数料金四七万二、一五〇円(この内金二五万円は昭和四六年八月三〇日支払ずみ)および謝金九四万四、三〇〇円合計金一四一万六、四五〇円

(6) 原告山口の損害は、右(2)(3)(4)(5)の合計金一、〇八五万九、四五〇円である。

4  原告田中の蒙つた損害

(1) 治療状況と後遺症

原告田中は、本件事故による頭部打撲、前額陥没骨折、鼻稜骨鼻中隔骨折、鼻翼上口唇裂傷、左視神経損傷、上顎骨下顎骨開設骨折、舌の裂傷欠損、口内裂傷、頸椎捻挫、前胸打撲(左胸鎖関節第一肋骨損傷)、頸部右大腿両足打撲裂傷等により昭和四五年八月二八日から同年九月一日まで五日間小田桐病院へ入院し、頭部顔面外傷(頭蓋底、上下頸骨骨折等)、鼻骨骨折、鼻孔狭窄症等により昭和四五年九月一日から同年一二月八日まで九九日間、国立相模原病院へ入院し、右入院中の昭和四五年九月四日から退院後の昭和四八年九月一二日までの間に一〇五日間歯科の治療のため同病院へ通院し、脳外科、整形外科、耳鼻科、眼科等の治療のため右退院直後から昭和四六年三月末ころまでは一週間に二、三回宛、その後昭和四八年九月ころまでは一か月に一回宛同病院へ通院し、また右膝瘢痕ケロイド切除のため昭和四七年七月二四日から同年八月七日まで一五日間入院し、その後一か月位の間に一〇回通院して治療を受けたが、後遺症として左盲(第八級)顔の変形(第一二級)および軽度の咀嚼障害(第一〇級の2)、上唇部知覚麻痺(第一四級の9)、三歯以上の歯科補綴(第一四級の2)があり、後遺障害の等級表では最も重い左盲(第八級)の一段階上の第七級となる。

(2) 積極損害

<1> 治療費

原告田中の治療費のうち、金四六万八、二九二円および前記通院中の治療費は被告会社において支払ずみであるが、残金一万七、八七〇円の支払を求める。

<2> 付添看護料

入院期間合計一二三日間原告田中の母および父らが看護にあたつたので、近親者の付添看護料として、一日につき金一、五〇〇円の割合による一二三日間の看護料金一八万四五〇〇円の支払を求める。

<3> 入院中の諸雑費

入院期間合計一二三日間、一日につき金五〇〇円の割合による諸雑費金六万一、五〇〇円の支払を求める。

右<1><2><3>の合計金二六万三、八七〇円

(3) 逸失利益

<1> 就職が一年おくれた分

原告田中は、本件事故当時東京都立町田高校二年に在学中であつたが、前記受傷のため長期間入院したため、昭和四五年一二月末日まで休学し、翌四六年一月復学後も通院のため何回も遅刻を余儀なくされ、ついに欠席時間が規定数を超過して原級に留まつた。このため右高校の卒業が一年おくれ(昭和四八年三月卒業して同年四月大学へ入学)、大学を卒業してからの就職も一年おくれたことにより、蒙つた原告田中の逸失利益は、金一一八万一、九〇〇円である(別紙逸失利益算定表(田中分)の初年度欄記載のとおり)。

<2> 原告田中は、昭和五二年三月大学を卒業し、同年四月(二三才)から六七才まで稼働できるところ、前記後遺症(第七級)により、その労働能力を右稼働の全期間五六パーセント喪失したものと認められ、右労働能力喪失による原告田中の逸失利益は、金二、四六三万五、八〇〇円である(別紙逸失利益算定表(田中分)のその後欄記載のとおり)。

右<1><2>の合計金二、五八一万七、七〇〇円

(4) 慰藉料

原告田中に対する慰藉料は、前記傷害の部位、程度、治療状況、後遺症(一眼失明、その他後遺症の数が多いこと、顔貌の著しい醜状化)、落第その他の事情に鑑み、少くとも金六〇〇万円が相当である。

右(2)(3)(4)の合計金三、二〇八万一、五七〇円

(5) 弁護士費用

被告らの本件事故についての抗弁その他の主張応訴態度、これによる本訴訟の長期化、複雑困難性等から原告田中が弁護士天野憲治および同村藤進に支払うことを約した手数料金一六〇万四、〇七八円(内金二五万円は昭和四六年八月三〇日支払ずみ)および謝金三二〇万八、一五七円合計金四八一万二、二三五円

(6) 原告田中の本件事故による損害は、右(2)(3)(4)(5)の合計金三、六八九円三、八〇五円である。

5  本件事故は、被告鈴木の無謀運転によるものであり、同被告は民法七〇九条により原告らに対し前記損害を賠償すべき義務があり、被告会社は、被告鈴木を雇用して、本件自動車を運行させていたものであるから、自動車損害賠償保障法三条により、原告らに対し、前記損害を賠償すべき義務がある。

6  よつて、原告らは、被告らに対し、被告らが連帯して、原告山口に対し金一、〇八五万九、四五〇円、原告田中に対し、金三、六八九万三、八〇五円および右各金員に対する本件事故の翌日である昭和四五年八月二九日から支払ずみまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、甲車(バス)が黄信号を無視して交差点に進入したこと、乙車(自動二輪車)が交差点に入つたのが青信号でその時速が約三〇キロメートルであつたこと、乙車が優先通行権をもつこと、甲車が交差点入口付近より直ちに横断歩道上を斜めに横切つて強引に右折したこと、衝突部位が甲車の左前部と乙車の右前部であることは否認する。原告らの傷害の発生状況、その部位、程度については不知。その余の事実は認める。

3  同3の事実は不知(但し後記被告会社支払分は認める)。

4  同4の事実は不知(但し後記被告会社支払分は認める)。

5  同5の事実は否認する。

三  抗弁

1  本件事故は原告山口の一方的過失によつて発生したものである。

(1) 本件事故発生の状況

被告鈴木は、昭和四五年八月二八日午後四時四二分ころ、大型バス(甲車)を運転し、滝の沢方面から新原町田方面に向つて進行し、東京都町田市森野三丁目二〇番地先交差点に差しかかつた。折から右交差点の対面信号は青色だつたので、右交差点を相模原方面に向つて右折するため右折の合図をしながら、時速約三〇キロメートルで交差点に進入した。甲車が滝の沢方面寄りの横断歩道を進行している時に被告鈴木は対面信号が黄色に変つたことを認めたので、急ぎ右折して交差点外に出ようと考え、対向車線を見たところ、新原町田方面より交差点に向つて進行してくる原告山口運転、原告田中同乗の自動二輪車(乙車)を自車より約四〇メートル前方の地点、すなわち交差点外の地点に認めた。その際交差点内には車両はなく、交差する本町田方面より相模原方面へ向う車線には交差点手前で車両が停止していたが、相模原方面より本町田方面へ向う車線には交差点手前で停止している車両はなかつた。そこで、被告鈴木は急ぎ交差点外へ出るべく右折を開始し、車体が半分以上対向車線に入つたところ乙車が黄信号にもかかわらず、これを無視して交差点手前で停止することなく、猛烈なスピードで交差点に進入し、甲車の左側中央の乗降口ドア附近に衝突したのである。

(2) 原告山口の過失

甲車が、黄信号になつたのを認め、右折を開始した際には、乙車は未だ交差点外にあつた(交差点より約一〇メートル新原町田方面寄り)のであるから、原告山口は交差点の直前において停止する義務があるのにこれに違反して交差点に進入したのであつて、甲車の運転手である被告鈴木は乙車を認めた時には乙車は未だ交差点外の地点にあつたから、乙車が当然交差点直前で停止するものと信頼して右折を開始したのである。したがつて、本件事故は原告山口の一方的過失によつて発生したもので、被告鈴木には何らの過失もないものである。

(3) 因果関係

被告鈴木が右折する際、小廻りしたことと本件事故の発生との間には因果関係がない。前記のように原告山口が交差点手前で停止することなく、時速約五〇キロメートルの速度で交差点に突込んできたことが本件事故発生の原因だからである。

2  被告鈴木の運転する甲車には、本件事故当時何ら構造上の欠陥又は機能の障害はなかつた。

よつて、被告らは原告らに対し損害賠償の義務はない。

3  被告会社は、原告らに対しすでにつぎのとおり支払をしている。

(1) 原告山口に対し、同人の自認する治療費一六万七、二四〇円、付添看護料七万五、六五〇円の外、付添看護料四、四七五円、通院交通費一万一、三四〇円(被告会社で乗用車を提供した料金相当額)以上合計金二五万八、七〇五円

(2) 原告田中に対し、同人の自認する治療費四六万八、二九二円の外、治療費五万三、四三六円、以上合計金五二万一、七二八円

四  抗弁事実に対する認否

1  抗弁1、2の事実は否認する。

2  同3の事実のうち、(1)の通院交通費一万一、三四〇円は否認するが、その余は認める。(2)の事実は認める。

第三証拠〔略〕

理由

1  請求原因1の事実および請求原因2の事実のうち、昭和四五年八月二八日午後四時四〇分ごろ、被告鈴木の運転する被告会社の定期運行バスと、原告山口が運転し原告田中が同乗する自動二輪車が、町田市森野三丁目二〇番地先の交通整理の行われている都道森野交差点において衝突し、原告らが受傷したことは当事者間に争いがない。

2  本件事故の原因について、原告らは被告鈴木の一方的過失によるものと主張し、被告らは原告山口の一方的過失によるものと主張するので、まずこの点について判断する。

〔証拠略〕を綜合すれば、定期バスを運転する被告鈴木は、前記交差点に入る手前で青信号を確認し、横断歩道の先端あたりに来たとき、信号が黄色であつたので、急いで右折を開始したが、その際前方は注視しなかつたこと、自動二輪車を運転する原告山口は、前記交差点に入る時は青信号であつたが、横断歩道を越えたあたりで信号が黄色に変わつたので、軽くブレーキを踏み、右折合図のバスの前方を通りぬけようとしたところ、被告鈴木の運転するバスが前記のように急に右折したため、自車の前輪をバスの左前部あたりに衝突させ、転落して原告山口はバスの後輪に引ずられ、同乗していた原告田中はバスの左側面に激突し、いずれも重傷を負つたことが認められ、右認定に反する〔証拠略〕は措信できない。右認定事実によれば、被告鈴木は、前方注視を怠り、直進する自動二輪車があるのに急拠小廻りに右折して、自動二輪車の進行を妨げた過失により、本件事故を惹起したものと認められ、したがつて、被告会社の免責の抗弁は採用できない。

3  そこで、原告山口の損害について判断する。

(1)  〔証拠略〕によれば、請求原因3の(1)の事実(治療状況と後遺症)が認められる。

(2)<1>  原告山口の治療費のうち、金一六万七、二四〇円について、被告会社が支払をしたことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、相模原中央病院の治療費四万九、七〇〇円について、原告山口が支払をなしたことが認められる。

<2>  被告会社が付添看護料金八万一二五円の支払をしたことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、原告山口の入院中一七日間について、原告山口の母が付添看護をしたことが認められ、その看護料は一日一、五〇〇円が相当であるから、右看護料は合計二万五、五〇〇円となる。

<3>  〔証拠略〕によれば、前記のように原告山口は都合五四日間入院したことが認められ、入院中の諸雑費は一日五〇〇円が相当であるから、右入院中の諸雑費は合計二万七、〇〇〇円となる。

そうすれば、積極損害は右<1><2><3>の合計一〇万二、二〇〇円となる。

(3)  〔証拠略〕によれば、原告山口は本件事故当時東京都立町田高校二年に在学中であつたが、本件受傷のため欠席し、規定数を超過して原級に留まり、右高校の卒業が一年おくれ、昭和四八年四月東海大学教育学科に入学したことが認められる。

ところで、原告山口は本件事故のため高校の卒業が一年おくれ、大学を卒業してからの就職も一年おくれることにより、金一一八万一、九〇〇円の逸失利益があると主張する。〔証拠略〕によれば、新大卒二三・八才の給与額が七万五、五〇〇円、年間賞与その他特別給与額が一四万六、五〇〇円であることが認められるから、年間収入は一〇五万二、五〇〇円となり、ホフマン式計算法により二年間の中間利息を控除すれば九五万六、八一八円(円以下四捨五入)となり(なお、〔証拠略〕によれば、昭和四九年の賃上は平均約三〇パーセントであることが認められるが、〔証拠略〕の給与額は、勤続年数一・三年のものであるから、原告ら主張のように修正はしない。)右金額は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。つぎに、原告山口は前記後遺症により、その労働能力を一四パーセント喪失したものとして金六一五万八、九〇〇円の逸失利益があると主張する。〔証拠略〕によれば、原告山口は大腿前面のシビレ感は残存するが、機能障害はないこと、東海大学教育学科に入学し、将来教師になる希望をもつていることが認められるが、前記のような後遺症があることによつて教師の勤務に支障があるとは推認できず、したがつて、その収入には何らの影響がなく、労働能力喪失による逸失利益があるとはいえないから、原告山口のこの点の主張は理由がない。

(4)  原告山口に対する前記傷害の部位、程度、治療状況、後遺症、留年その他の事情を考慮すれば、慰藉料は金二〇〇万円が相当である。

そうすると、右(2)(3)(4)の合計は金三〇五万九、〇一八円となる。

(5)  〔証拠略〕によれば、原告代理人に手数料として請求額の五分、謝礼金として認容額の一割を支払う旨約し、金二五万円を支払つたことが認められるが、本件事故による弁護士費用は、本訴にあらわれた諸事情を考慮して前記金三〇五万九、〇一八円の一割に当る金三〇万五、九〇二円(円以下四捨五入)が相当であると認められる。

そうすると、原告山口の蒙つた損害は合計金三三六万四、九二〇円となる。

4  つぎに、原告田中の損害について判断する。

(1)  〔証拠略〕によれば、請求原因4の(1)の事実(治療状況と後遺症)が認められる。

(2)<1>  原告田中の治療費のうち、金五二万一、七二八円について被告会社が支払をしたことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、治療費金一万五、八七〇円および小田桐病院の文書料金二、〇〇〇円合計金一万七、八七〇円を原告田中が支払つたことが認められる。

<2>  〔証拠略〕によれば、原告田中の入院期間は合計一一八日間であり、その間原告田中の母が付添看護をしたことが認められ、その看護料は一日一、五〇〇円が相当であるから、右付添看護料は合計金一七万七、〇〇〇円となる。

<3>  前記のように、原告田中は合計一一八日間入院したことが認められ、入院中の諸雑費は一日五〇〇円が相当であるから、右入院中の諸雑費は合計五万九、〇〇〇円となる。そうすると、積極損害は、右<1><2><3>の合計金二五万三、八七〇円となる。

(3)  〔証拠略〕によれば、原告田中は本件事故当時東京都立町田高校二年に在学中であつたが、本件受傷のため欠席し、規定数を超過して原級に留まり、右高校の卒業が一年おくれ、昭和四八年四月日本大学経済学部に入学したことが認められる。

ところで、原告田中は本件事故のため高校の卒業が一年おくれ、大学を卒業してからの就職も一年おくれることにより、金一一八万一、九〇〇円の逸失利益があると主張する。前記のように、〔証拠略〕によれば、新大卒二三・八才の給与額が七万五、五〇〇円、年間賞与その他特別給与額が一四万六、五〇〇円であることが認められるから、年間収入は一〇五万二、五〇〇円となり、ホフマン式計算法により二年間の中間利息を控除すれば九五万六、八一八円(円以下四捨五入)となり(なお、原告ら主張のように修正しない理由は前記のとおり)、右金額は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。つぎに、原告田中は前記後遺症により、その労働能力を五六パーセント喪失したものとして金二、四六三万五、八〇〇円の逸失利益があると主張する。

〔証拠略〕によれば、後遺症として左盲(八級該当)、顔の変形、軽度の咀嚼障害、上唇部知覚麻痺、三歯以上の歯科補綴があること、本件事故前は健全な体であつて理工学部特に建築学部系統への進学を希望していたが、左盲を考慮して日本大学経済学部に入学し、将来自分の体の条件にあつた職業に就くことを希望していることが認められる。

ところで、前記障害があることによつて、就職する職種が事実上制約されるであろうことは推認できるが、さればといつて全く就職の機会がないわけではなく、就職する以上は他の者と比較して待遇面において不利益な取扱をされるとは考えられず、また、前記障害自体によつて何らかの労働能力を喪失したとしても、現段階において、どの程度の労働能力を喪失したかを判断することは困難であるから原告田中のこの点の主張は理由がない。なお、後遺症による労働能力の喪失を判断することが困難である場合に、かかる事情は慰藉料を定めるについて考慮するのが相当であると考える。

(4)  原告田中に対する前記傷害の部位、程度、治療状況、後遺症(後遺症による労働能力の喪失も含む)、留年その他の事情を考慮すれば、慰藉料は金六〇〇万円が相当である。

そうすると、、右(2)(3)(4)の合計は金七二一万〇、六八八円となる。

(5)  〔証拠略〕によれば、原告代理人に手数料として認容額の一割を支払う旨約し、金二五万円を支払つたことが認められるが、本件事故による弁護士費用は、本訴にあらわれた諸事情を考慮して、前記七二一万〇、六八八円の一割に当る七二万一、〇六九円(円以下は四捨五入)が相当であると認められる。

そうすると、原告田中の蒙つた損害額は合計金七九三万一、七五七円となる。

5  以上の事実によれば、被告鈴木は民法七〇九条により、被告会社は自動車損害賠償保障法三条により原告らに対し損害賠償の義務があるというべく、被告らは連帯して、原告山口に対し、金三三六万四、九二〇円、原告田中に対し、金七九三万一、七五七円と、これら金員に対する本件事故の翌日である昭和四五年八月二九日から支払ずみまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるというべきである。

6  よつて、原告らの本訴請求のうち、右の限度においては理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村重慶一)

逸失利益算定表(山口分)

<省略>

逸失利益算定表(田中分)

<省略>

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